あなたの会社の職務発明規程の内容は十分といえますか?
2019/09/26   知財・ライセンス, 特許法

9月19日に配信した「従業員から取得する誓約書のポイント」に引き続き、今回も弁護士法人内田・鮫島法律事務所の永島太郎弁護士に記事を執筆していただきました。

1.はじめに

特許庁の資料によれば、大企業の99%また中小企業の20%が、職務発明規程を整備し、会社が従業員のなした職務発明に関する権利を取得等できるようにしています。
職務発明規程に盛り込まれる内容は、一般的に、①発明の届出手続、②権利の帰属に関する事項、③「相当の利益」の内容、および、④従業員からの意見の聴取手続などです。

このうち、③の「相当の利益]の内容については、時折、改善の余地がある例を目にすることがあります。
ここでは、この「相当の利益」に関する内容について、どのような問題が存在し、どのように改善することが考えられるのかについて、ご説明します。

2.なぜ職務発明規程が設けられるのか

最初に職務発明規程の目的等について、ご説明しておきます。

もし、職務発明規程という会社・従業員間の取り決めが存在しない場合、職務発明について特許を受ける権利が会社に帰属することはありません。
会社は通常実施権を有しますが(特許法35条1項)、もし会社がこの職務発明を独占して実施することを希望する場合には、当該従業員と個別に交渉することとなり、そもそも従業員から権利譲渡や独占的な実施許諾を受けることができるのか、その対価をいくらにするのかなど、多くの不確定要素を抱えることになってしまいます。

この点について、特許法は、会社が、従業員等がなした職務発明について、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ会社に特許を受ける権利を取得させることができること等を定めています(特許法35条2項3項)。
この特許法の規定に基づいて、多くの会社では、職務発明規程を整備しています。

3.相当の利益

(1)問題の所在
従業員は、職務発明について会社に特許を受ける権利を取得等させた場合、相当の金銭その他の経済上の利益(「相当の利益」)を受ける権利を有します(特許法35条4項)。職務発明規程の中には、この相当の利益の内容について、改善の余地がある例を目にすることがあります。
例えば、「会社は、職務発明をした従業員に対し、特許法の規定にしたがって、相当の金銭その他の経済上の利益を与える。」とだけ規定しているような場合です。

このような規定の問題点の1つは、会社が、職務発明をなした従業員に対し、相当の利益として、具体的に何をいくら与えるのか分からない、逆に言えば、この従業員から、いくら請求されるか分からないという点にあります。

特許法には、「相当の利益についての定めがない場合…には、…相当の利益の内容は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない」(特許法35条7項)との規定が存在しますが、あくまで相当の利益の内容を定める際の視点を提供するものにすぎません。

(2)対応策等
このため、職務発明規程には、会社による権利の取得等の規定のみならず、その取得等の際に、従業員に対して、具体的にどのような内容の相当の利益を与えるのかについてまで規定しておく方が望ましいと言えます。

ちなみに、この相当の利益の種類について、経済産業省告示第百三十一号には、①金銭のほか、②ストックオプションの付与、③金銭的処遇の向上を伴う昇進又は昇格、④法令及び就業規則所定の日数・期間を超える有給休暇の付与、ならびに、⑤職務発明に係る特許権についての専用実施権の設定又は通常実施権の許諾が例として挙げられています。

(3)手続の重要性
なお、この相当の利益について、特許法35条5項が、「契約、勤務規則その他の定めにおいて相当の利益について定める場合には、相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であると認められるものであつてはならない」と規定している点に注意が必要です。

この規定については、上記経済産業省告示の内容などを踏まえた手続的対応をとるなどして、「その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理である」と判断されないように注意する必要があります。

執筆者情報

永島太郎
弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士

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永島 太郎ながしま たろう弁護士

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